社員が3人、5人、多くても十数名という会社の経営者から、同じ相談をよく受けます。人を増やす前に、AIに回せる業務をまず見極めたいという相談です。採用には時間もコストもかかります。先に業務を整理しなければ、何人必要かも、どんな人を採るべきかも決まりません。

私が経営するネクストスケールも、社員は数名で動いています。デジライズの事業運営にも関わっていますが、どちらも人数で勝負する組織ではありません。だからこそ、AIに任せる業務の選び方を、自社と支援先の両方で試してきました。今回はその判断基準を整理します。

人を増やす前に整理しておく業務の棚卸し

最初にやるべきことは、ツール選びではありません。今、社内で誰が何をしているかを書き出すことです。小さな会社ほど、業務が個人の頭の中にしかなく、本人以外は把握していません。棚卸しをすると、同じ作業を複数人がそれぞれのやり方でしている、ということがよく見つかります。

棚卸しの単位は、部署や職種ではなく「作業」にします。例えば「営業事務」ではなく「見積書の作成」「請求書の発行」「顧客への初回メール返信」のように分けます。作業単位まで分解しないと、AIに任せられる部分と、人が判断すべき部分が混ざったまま残ります。

私が支援先でよく使う方法は、1週間分の作業を本人にメモしてもらうことです。所要時間と、やり方を誰かに説明できるかどうかも一緒に書いてもらいます。これだけで、次に挙げる3条件に当てはめる準備ができます。

AIに任せやすい業務の3条件

手順が言語化できる

本人が「いつもこうやっている」と口で説明できる業務は、AIに任せやすい業務です。逆に「その場の空気で決めている」「相手によって対応を変えている」業務は、言語化が終わっていないので、まだ任せる段階ではありません。言語化できないまま任せると、出てきた結果を毎回人が全部直すことになり、むしろ手間が増えます。

やり直しが効く

一度送ってしまうと取り返しがつかない業務、例えば契約条件の最終確認や、重要な顧客への謝罪連絡は、AIの出力をそのまま使うのは避けた方がいいと考えています。一方で、議事録の下書きや、社内向けの資料の初稿は、間違っていても誰かが見て直せます。やり直しが効く業務から任せると、失敗しても被害が小さく済みます。

判断が少ない

「この条件なら承認」「この条件なら保留」のように、判断の分岐が少ない業務は任せやすくなります。分岐が多い業務は、判断の基準自体を先に整理する作業が必要になるので、AI導入の前にもう一段階、業務整理が必要だということです。

逆に、人が持つべき業務

任せられない業務にも共通点があります。一つは、相手との関係性そのものが価値になっている業務です。顧客との信頼関係を築く商談や、社員への評価面談は、内容以前に「誰が言うか」が重要なので、人が持つべきだと考えています。

もう一つは、会社として初めて判断する業務です。過去に例のない価格設定や、新しい取引先との契約条件は、まだ基準が存在しません。基準がないものをAIに判断させると、根拠のない出力をそのまま信じてしまう危険があります。基準ができるまでは、経営者か責任者が判断し、その判断を言語化してから、次回以降の任せる業務に回すという順番が安全です。

この切り分けを誤ると、AIに任せた業務の品質が落ちて、結局人が全部やり直す羽目になります。少人数の会社ほど、この手戻りのダメージが大きいので、最初の切り分けを丁寧にやる価値があります。

小さな会社で実際に起きた詰まり方と、その戻し方

ある支援先では、問い合わせ対応の一次返信をAIに任せたところ、最初の2週間はうまくいきました。ところが、問い合わせの内容が少し複雑になった途端、見当違いの返信が増え始めました。原因は、担当者が「典型的な質問」だけを想定して手順を作り、例外のパターンを言語化していなかったことでした。

戻し方はシンプルでした。例外が出た時だけ、担当者が一度目を通して直す運用に戻し、直した内容を蓄積していきました。1か月ほどで例外パターンが見えてきた段階で、再びAIに戻しました。つまり、任せる範囲を一度狭めて、基準が固まったら広げ直すという往復が、小さな会社では現実的な進め方になります。

任せて失敗したら人がやるに戻す、この往復ができるかどうかが、AI導入がうまくいく会社とそうでない会社の差だと、私は現場で何度も見てきました。最初から完璧な線引きを目指すより、戻せる前提で始める方がうまくいきます。

最初の1業務を選ぶ時の優先順位

いくつも同時に任せようとすると、どこで詰まったのか分からなくなります。最初は1業務に絞ることをおすすめしています。選ぶ基準は、頻度が高く、失敗しても影響が小さい業務です。頻度が高いと効果を早く確認できますし、影響が小さいと試行錯誤がしやすくなります。

議事録の要約、社内向け資料の初稿作成、定型メールの下書きなどは、この条件に当てはまりやすい業務です。逆に、頻度は高くても失敗の影響が大きい業務、例えば請求額の確定は、最初の1業務には向きません。

1業務で効果が確認できたら、その成功パターンを言語化して、次の業務に広げます。この順番を守ると、人を増やす前にどこまでAIで回せるかが、感覚ではなく実績で見えてきます。

私たちはこの業務選定から実装、社員教育、効果測定までを、1業務に絞って一緒に進めるFDE型のAX伴走支援を行っています。人を増やす前にどこまで任せられるか整理したい方は、ネクストスケールまでお気軽にご相談ください。