インボイス制度が始まったとき、「登録しないと取引が減るかもしれない」と考えて登録した方は多いと思います。

その方がずっと使えていた「2割特例」という計算のラクなやり方が、2026年分(今年の確定申告分)で終わります。

ただ、なくなって終わりではありません。代わりの制度ができました。「3割特例」です。
そして、ここに「個人事業者だけ」という条件が付いています。これが今回いちばん効くところです。法人は使えません。

2026年11月時点の内容です。数字はすべて国税庁と公正取引委員会の資料で確認しています。


最初に:自分がどれに当たるか

読む場所が変わるので、ここだけ確認してください。

A. インボイスに登録している個人事業者(フリーランス)
→ 0章〜4章。来年から計算方法が変わります。法人化を考えている方は4章が重要です。

B. インボイスに登録していない個人事業者
→ 5章・6章。発注元の事情が先月から変わりました。

C. 法人(会社)
→ 2割特例は今期で終わり、3割特例は使えません。1章と3章を見てください。


0. 30秒で:消費税の計算はどうなっているか

ここが分かっていないと特例のありがたさが伝わらないので、先に簡単に。

消費税は、お客さんから預かった消費税 − 自分が払った消費税 = 納める額です。

たとえば、

  • お客さんに110万円(本体100万円+消費税10万円)請求した
  • 経費で33万円(本体30万円+消費税3万円)払った
  • 納めるのは 10万円 − 3万円 = 7万円

この「自分が払った消費税を差し引く」ことを、税金の言葉で仕入税額控除と言います。

やっかいなのは、この差し引きをするには領収書や請求書を1枚ずつ集めて、相手がインボイス登録しているかを確認して、集計する必要があるところです。これが地味に重い作業です。

2割特例・3割特例・簡易課税は、どれもこの集計をしなくていいようにする制度です。 預かった消費税に決まった割合をかけるだけで済みます。

制度納める額
2割特例預かった消費税の 2割
3割特例預かった消費税の 3割
簡易課税業種ごとの割合(ウェブ系は5割)

さきほどの例なら、2割特例だと 10万円 × 20% = 2万円。経費の集計はいりません。

得か損かは経費の多さで変わりますが、ウェブ系のように経費が少ない仕事ほど、この特例は有利になります。


1. いつまで何が使えるか

個人事業者(フリーランス)

確定申告の年分使える制度納める額
2023〜2026年分2割特例預かった消費税の2割
2027年分3割特例預かった消費税の3割
2028年分3割特例預かった消費税の3割
2029年分以降特例なし簡易課税か通常の計算

2027年分の申告は2028年の3月です。つまり実際に3割で払うのは2028年の春から。

法人(12月決算の場合)

事業年度使える制度
2026年12月期まで2割特例
2027年12月期以降なし(3割特例は使えません)

正確には、2割特例は「2026年9月30日までの日が含まれる期間」で終わります。
12月決算の会社なら2026年12月期が最後、個人なら2026年分が最後、という意味です。


2. 3割特例の条件は、実質2つだけ

国税庁の資料には条件が8つくらい並んでいますが、ふつうに仕事をしているフリーランスが見るところは2つです。

① 個人事業者であること

法人は使えません。

② 売上が1,000万円以下であること

ここだけ少し細かくて、2か所を見ます。

  • 2年前の売上が1,000万円以下
  • 前年の1月〜6月の売上も1,000万円以下

2027年分で使いたければ、2025年の売上と、2026年1〜6月の売上を見るということです。

後半の「前年1〜6月」は、売上の代わりにその半年で払った給与の合計額で判定してもいいことになっています。人を雇っていなければ給与は0円なので、こちらを選べば通ります。

残りの条件(当てはまる人は少ないです)

  • 海外に住んでいて、日本に事業所がない
  • 届出をして、申告の期間を3か月や1か月に区切っている
  • 相続によって消費税を納める立場になった年
  • 高額な資産(1,000万円以上の機械や不動産など)を買ったことで納税義務が生じている年

もうひとつ前提があります。「もともと消費税を納めなくてよかったが、インボイス登録のために納める側になった」人が対象です。売上が1,000万円を超えて納税義務が生じた方は、2割特例と同じく対象外です。

手続きは「申告書に書くだけ」

事前の届出はいりません。 確定申告書の決まった欄に「3割特例を使います」と書くだけです。

裏を返すと、書き忘れると適用されません。 そこだけ気をつけてください。


3. 2029年からどうなるか

3割特例は2028年分で終わります。2029年分からは、

  • 通常の計算(領収書を集めて差し引く)
  • 簡易課税(業種ごとの割合で計算する)

のどちらかになります。

簡易課税の割合(業種ごと)

業種割合納める額
第1種(卸売業)90%預かった消費税の10%
第2種(小売業など)80%20%
第3種(建設業、製造業など)70%30%
第4種(飲食店業など)60%40%
第5種(サービス業、運輸通信業、金融・保険業)50%50%
第6種(不動産業)40%60%

Web制作・デザイン・ライティング・コンサルティングは、第5種(サービス業)になるのが一般的です。預かった消費税の50%を納める形になります。3割特例の3割からは上がりますが、領収書を集めて計算するよりはずっと楽です。

※業種の区分は契約内容や実態で決まります。自分がどれに当たるかは税理士か税務署に確認してください。

届出の期限が緩くなりました(これは良い改正です)

簡易課税は本来、使いたい年が始まる前日までに届出書を出さなければいけません。2029年分で使いたければ2028年12月31日まで。

年が明けてから「簡易課税のほうが得だった」と気づいても手遅れ——これは実務でよく起きる事故です。

ところが今回、ここに例外ができました。

2割特例または3割特例を使った翌年については、その年の確定申告の期限までに届出書を出せば、その年から簡易課税を使えます。

個人なら、2029年分について2030年4月1日まで(申告期限)に出せば間に合います。1年以上あとに、実際の数字を見てから決められるということです。覚えておくと得をします。


4. 2027年・2028年に法人化を考えている方へ

ここがこの記事でいちばんお伝えしたいところです。

3割特例は個人だけの制度なので、法人にするとこの権利は消えます。

消費税だけを見ると、こうなります。

【計算例】
前提:年間の売上が税込1,100万円(本体1,000万円+消費税100万円)/2年前の売上は1,000万円以下/業種はサービス業(第5種)
※端数処理と地方消費税の計算を省いた概算です

- 個人のまま3割特例 → 100万円 × 30% = 約30万円
- 法人にして簡易課税 → 100万円 × 50% = 約50万円

差は年20万円。2027年・2028年の2年で約40万円です。

(新しく作った会社は2年前の売上がないので、原則は消費税を納めなくてよい立場です。ただインボイス登録をすると納める側になります。そして法人は3割特例を使えないので、簡易課税か通常の計算になります。)

ただし、法人化を消費税だけで決める話ではありません。

所得税と法人税の税率の差、社会保険料の負担、役員報酬の決め方、取引先からの信用、融資の受けやすさ——全部が絡みます。消費税で年20万円不利でも、ほかで取り返せるなら法人化したほうがいい場合は普通にあります。

お伝えしたいのは、「検討する材料が1つ増えたので、試算に入れておいたほうがいい」ということです。2026年中に法人化するのと2029年に法人化するのとでは、消費税の金額が変わります。

実際の判断は税理士に確認してください。


5. 【登録していない方へ】発注元が差し引ける割合が、先月下がりました

ここからは、インボイスに登録していない方と、外注を使っている方の話です。

インボイス登録していない相手に払ったお金は、本来、発注元は「払った消費税」として差し引けません。ただし当面は一定の割合だけ差し引けることになっています。

この割合が2026年10月1日から下がりました。

期間発注元が差し引ける割合
2023年10月〜2026年9月80%
2026年10月〜2028年9月70% ← 今ここ
2028年10月〜2030年9月50%
2030年10月〜2031年9月30%
2031年10月〜0%

改正前は「80% → 50% → 0%」で2029年9月に終わる予定でしたが、期限が2年延びて、70%・50%・30%という段階が入りました。 完全にゼロになるのは2031年10月からです。

つまり、登録していない方に外注を出している発注元の負担は、先月から少し増えています。 「インボイス登録してもらえませんか」という相談が増える可能性はあります。

(1社からの仕入れが年1億円を超える部分には、この措置が使えなくなりました。個人への外注で引っかかることはまずありません。)


6. 「インボイスがないから消費税分は払えない」と言われたら

先に確認:そもそも影響が出ない相手もいます

発注元が次のどちらかなら、あなたが登録していなくても発注元は困りません。

  • 発注元が消費者か、消費税を納めていない事業者
  • 発注元が簡易課税か2割特例を使っている

簡易課税や2割特例は、そもそも領収書を集めて差し引く計算をしません。だからインボイスがあるかないかが関係ないんです。

発注元が小さい会社や個人の場合、これに当たることは珍しくありません。「インボイスがないので」と言われたときは、相手が本当にそれで損をするのかという点から考えられます。

一方的な引き下げは、法律上の問題になりえます

財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省が連名で出しているQ&A(2026年1月30日改正)に、考え方が整理されています。要点だけ挙げます。

※以下、「免税事業者」はインボイス登録していない事業者、「課税事業者」は消費税を納める立場の事業者を指します。

  • 取引条件を見直すこと自体は、それだけで問題になるものではありません
  • ただし、話し合いが形だけで、発注側の都合だけで著しく低い価格にした場合(あなたが仕入れで払った消費税も出ないような価格)は、独占禁止法上の問題になります(「優越的地位の濫用」=立場の強い側が、立場の弱い相手に不利な条件を押しつけること)
  • 先に決めた代金を後から減額する場合、「相手が免税事業者だから」は正当な理由になりません
  • 「課税事業者になってほしい」と頼むこと自体は問題ありません。 しかし「ならなければ値下げする/取引をやめる」と一方的に通告するのは、問題になるおそれがあります
  • 頼まれて課税事業者になった側に対して、きちんと話し合わないまま価格を据え置くのも、問題になるおそれがあります

「下請法」は名前が変わりました

地味ですが大事なところです。これまでの下請法は「取適法」という名前になりました(正式名称:製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)。

調べるときや相談するときは、新しい名前のほうが情報が見つかります。

相談先は公正取引委員会と中小企業庁です。全国の事務所に「取引適正化調査課」が置かれています。揉めたときに一人で抱えなくていい、という点だけでも知っておいてください。


7. 実務として、やること

① 会計ソフトの設定を見直す(登録していない相手への支払いがある方)

差し引ける割合が80%から70%に変わっています。インボイス登録していない相手(免税事業者)への支払いに付ける区分が「経過措置80%」のままになっていないか確認してください。古い設定のまま入力を続けると、申告のときに全部やり直しになります。

② 取引先ごとに登録番号を控えておく

申告のときに「経過措置の対象」と「そうでないもの」を分けられないと、手が止まります。請求書を受け取った時点で、取引先の一覧に登録番号を書いておくのがいちばん楽です。番号は国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で確認できます。

③ 自分が出す請求書の記載事項を確認する

インボイス登録しているなら、登録番号・適用税率・税率ごとの消費税額などが必要です。適格請求書に書くことはこちらにまとめています。請求書のテンプレートを一度直せば済む話なので、まだの方は年内に。

④ 3割特例を使うなら、申告書への記載を忘れない

事前の届出がいらない代わりに、申告書に書かないと適用されません。


まとめ

  • 2割特例は2026年分(今年)で最後
  • 2027年・2028年分は「3割特例」。ただし個人だけで、法人は使えない
  • 3割特例は事前の届出が不要。確定申告書に書くだけ(書き忘れに注意)
  • 条件は実質2つ。「個人であること」「2年前と前年1〜6月の売上が1,000万円以下」
  • 2029年分からは簡易課税か通常の計算。2割・3割特例を使った翌年は、確定申告の期限まで簡易課税の届出を待てる
  • 2027年・2028年に法人化すると3割特例は使えない。 法人化の試算に入れておく
  • 登録していない相手への支払いを発注元が差し引ける割合は、先月(2026年10月)から80%→70%
  • 一方的な値下げや据え置きは、独占禁止法・取適法上の問題になりうる。相談窓口がある

制度が細かく動いています。「去年調べた」で止まっていると判断を間違えます。 特に3割特例は2026年の改正でできたばかりで、まだあまり知られていません。


出典

  • 国税庁「インボイス制度に関する令和8年度税制改正について」(令和8年4月・5月改訂)
  • 国税庁 タックスアンサー No.6498「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」
  • 国税庁 タックスアンサー No.6509「簡易課税制度の事業区分」
  • 国税庁 タックスアンサー No.6501「納税義務の免除」
  • 財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(令和8年1月30日改正)

※この記事は制度の内容を整理したものです。個別の税務判断は税理士に確認してください。当方は税理士ではなく、税務相談はお受けできません。顧問税理士がいない場合は、提携している税理士をご紹介できます。


書いた人

合同会社種火(熊本)。経理代行・記帳代行と、資金繰り・資金調達の支援をしています。金融機関出身のメンバーが融資と財務分析の実務を担当しています。

請求書や記帳の実務でつまずいている方は経理代行のページをご覧ください。創業したばかりで「どこまで自分でやるべきか」が分からない段階のご相談も受けています。