フリーランスや、できたばかりの会社でいちばん多い詰まり方は、赤字ではなく「黒字なのに現金が足りない」です。

仕事は取れている。請求も出している。それでも月末に口座を見ると足りない。この状態は、売上が少ないから起きるのではなく、お金の出入りの順番で起きます。

この記事では、

  • なぜ黒字なのに現金が足りなくなるのか
  • 原因①:入金が後、支払いが先(法律で決まっているルールがあります)
  • 原因②:源泉徴収で手取りが1割減る(請求書の書き方で変わります)
  • 原因③:2年目に、想定していなかった支払いが来る
  • 足りないと分かったときに動く順番

を整理します。数字は国税庁・公正取引委員会・中小企業庁・金融庁の資料で確認しています。2026年11月時点の内容です。


0. 30秒で:「利益」と「資金繰り」は別の話

同じ会社の同じ1か月でも、この2つはまったく違う数字になります。

 見ているもの
利益売上 − 経費。いつ入金・支払いがあるかは関係ない
資金繰り実際に口座を出入りしたお金。日付がすべて

たとえば3月に100万円の仕事を納品したら、3月の利益は100万円です。でも入金が5月末なら、3月の口座には1円も入っていません。

その間にも外注費・家賃・通信費・生活費は出ていきます。利益は黒字、現金はマイナス。 これが「黒字倒産」と呼ばれる状態の正体です。

倒産するのは赤字のときではなく、現金が尽きたときです。だから利益とは別に、現金の出入りだけを見る必要があります。


1. 原因①:入金は後、支払いは先

よくある形

「月末締め・翌々月末払い」という条件をよく見ます。これを日付に直すと、こうなります。

 日付経過
納品3月1日—
締め3月31日30日後
入金5月31日納品から91日後

3か月分の経費を、入金ゼロで立て替えることになります。売上が増えるほど立て替えが増えるので、忙しいときほど苦しくなります。

実は、法律に「60日以内」というルールがあります

2026年1月1日に、これまでの下請法が「取適法」に変わりました(正式名称:製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)。

ここに、支払いについての決まりがあります。

  • 発注元は、成果物を受け取った日から60日以内のできるだけ短い期間で支払期日を決める義務がある
  • 支払いが遅れた場合、年14.6%の遅延利息を払う義務がある
  • 2026年1月1日以降の発注では、手形払いが禁止。電子記録債権やファクタリングも、支払期日までに満額の現金を受け取れないものは使えない
  • 発注時に、支払期日を書面か電子メール等で明示する義務がある

そしてここが見落とされがちです。

「毎月末日締切、翌月末日支払」のような締切制度を設ける場合、締切日からの期間ではなく、受領(納品)から支払までの期間が60日を超えないことが必要

つまり、月末締め・翌々月末払いは、納品日によっては60日を超えます。さきほどの例は91日でした。

自分の取引が対象かどうか

発注元と自分の規模で決まります。個人事業主が受注する場合、発注元が次のどれかなら対象です。

仕事の種類発注元が対象になる条件
Webデザイン、ライティング、動画、イラストなど資本金1,000万円超、または従業員100人超
プログラム作成(システム開発)、情報処理資本金1,000万円超、または従業員300人超

従業員の基準は今回の改正で新しく入ったものです。これまでは資本金だけで決まっていたので、資本金が小さく従業員が多い会社は対象外でした。そこが埋まりました。

実務としてどうするか

交渉ではなく、事実の確認として聞けます。

  • 発注書・契約書に支払期日が書かれているかを見る。書いていなければ、それ自体が明示義務に反します
  • 納品日から支払日までが60日を超えていないかを数える
  • 超えていたら、「取適法の60日以内に収まる形にできますか」と確認する

相談先は公正取引委員会と中小企業庁です。全国の事務所に「取引適正化調査課」が置かれています。


2. 原因②:源泉徴収で手取りが1割減る

引かれる金額

個人に対して原稿料・講演料・デザイン料などを払う場合、発注元は所得税を天引きして支払います。

支払金額(A)引かれる額
100万円以下A × 10.21%
100万円超(A − 100万円)× 20.42% + 102,100円

110万円請求しても、入ってくるのは約98万円ということです。

これは前払いなので、確定申告で精算されて戻ってきます。損はしていません。 ただし戻ってくるのは翌年なので、資金繰りの上では1年間マイナスです。ここが見落とされます。

請求書の書き方で、引かれる額が変わります

ここは知っておくと得をします。国税庁がはっきり書いています。

報酬・料金等の額の中に消費税等の額が含まれている場合は、原則として消費税等の額を含めた金額を源泉徴収の対象としますが、請求書等において報酬・料金等の額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、その報酬・料金等の額のみを源泉徴収の対象とする金額として差し支えありません

つまり、請求書に「本体価格」と「消費税」を分けて書けば、消費税部分は天引きの対象から外せます。

請求書の書き方天引きされる額入金額
「合計 1,100,000円」とだけ書く122,520円977,480円
「本体 1,000,000円/消費税 100,000円」と分ける102,100円997,900円

差は20,420円。 請求書のテンプレートを一度直すだけで、毎回この差が出ます。
(※前提:源泉徴収の対象となる報酬で、支払先が個人の場合。端数は切り捨てです)

この例は100万円を超えているので差が大きく出ていますが、小さい金額でも同じ理屈で差が出ます。

引かれる・引かれないが取引先でバラつく理由

国税庁が挙げているデザインの例は、工業デザイン・グラフィックデザイン・広告デザイン・パッケージデザインなどです。Webサイト制作やシステム開発は、この列挙に明示されていません。

そのため実務では、同じような仕事なのに引く取引先と引かない取引先が混在します。入金額が1割変わるので、初回の請求前に「源泉徴収はされますか」と確認しておくと、資金繰りの計算が狂いません。

引かれないケースもあります

支払元が法人ではなく個人で、その人が給与を払っていない(または常時2人以下の家事使用人にしか払っていない)場合は、源泉徴収は不要とされています。個人のお客さまから直接受注している場合は、天引きされないことがあります。


3. 原因③:2年目に、想定していなかった支払いが来る

1年目を乗り切った人が次に詰まるのが、ここです。1年目に稼いだ分の請求書が、2年目にまとめて届きます。

所得税の予定納税

前年分をもとに計算した予定納税基準額が15万円以上だと、その年の所得税の一部を前払いさせられます。

  • 税務署から6月15日までに通知が来ます
  • 第1期:7月1日〜7月31日に、基準額の3分の1
  • 第2期:11月1日〜11月30日に、もう3分の1

1年目の所得が大きいほど、2年目の7月と11月の負担が重くなります。

消費税の中間申告

インボイス登録をして消費税を納めている場合、前年の消費税の年税額(地方消費税を除く)が48万円を超えると、年の途中でも納付が必要になります。

前年の消費税額中間申告の回数
48万円以下不要(任意の制度あり)
48万円超〜400万円以下年1回
400万円超〜4,800万円以下年3回
4,800万円超年11回

そのほかに来るもの

  • 住民税(前年の所得に対して、6月から納付が始まります)
  • 国民健康保険料(前年の所得で決まります)
  • 国民年金保険料

合わせると、2年目の6月〜11月に支払いが集中します。1年目の売上が良かった人ほど重くなる、という性質があります。


4. 対策:13週間の資金繰り表を作る

対策として一番効くのは、難しいことではなく「いつ、いくら足りなくなるか」を先に知っておくことです。

月単位だと間に合いません。週単位で13週間(約3か月)先まで書きます。

書くもの

項目中身
入金予定請求書ごとに、入金日で並べる(請求日ではありません)
固定費家賃、通信、サブスク、保険
変動費外注費、仕入れ
税金・社会保険予定納税(7月・11月)、消費税、住民税、国保
生活費個人事業なら必ず入れる
週末残高上の合計。ここがマイナスになる週を探す

マイナスになる週が見つかったら、その週が来る前に手を打てます。これが分かっているかどうかが、いちばん大きな差になります。

作り方は資金繰り表の作り方をまとめたページに手順を書いています。エクセルで十分です。

もう一つ:税金用の口座を分ける

入金があったら、その場で一定割合を別口座に移します。預金を1つにしていると、納税資金まで使ってしまいます。これは仕組みの問題なので、意志で解決しようとしないほうがいいです。


5. 足りないと分かったときに動く順番

順番があります。上から試してください。

① 入金を早める

  • 請求書をすぐ出す。締め日まで待つ必要がない取引先なら、納品したその日に出す
  • 着手金をもらう形にする(新規の取引ほど交渉しやすい)
  • 支払サイトを確認する。前述のとおり、60日を超えているなら法律上の根拠がある話です

② 支払いを遅らせる・減らす

  • 税金が払えないときは猶予の制度があります。放置すると延滞税が増えるだけなので、期限が来る前に税務署に相談してください
  • 社会保険料も同様に窓口があります

③ 借りる

日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」が、創業期の基本的な選択肢です。

項目内容
融資限度額7,200万円
返済期間(運転資金)10年以内(うち据置期間5年以内)
返済期間(設備資金)20年以内(うち据置期間5年以内)
担保・保証人希望を聞いた上での相談

資金繰りの観点でいちばん大きいのは「据置期間」です。これは元金の返済を待ってもらい、利息だけ払う期間のこと。創業期は入金が安定しないので、ここを使えるかどうかで毎月の負担がかなり変わります。

借りるのは、尽きる前です。 審査では試算表や通帳を見られるので、現金が減りきってから動くと選べる条件が狭くなります。


6. ファクタリングを使う前に(金融庁の注意喚起)

「売掛金を早く現金化する」サービスとして、ファクタリングの広告をよく見ると思います。

ファクタリング自体は売掛債権の売買で、違法なものではありません。ただし金融庁が、ファクタリングを装った違法な貸付けについて繰り返し注意を出しています。

危険なサインとして挙げられているもの

  • 受け取る買取代金が、債権額に比べて著しく低い
  • 売った側が債権を買い戻す仕組みになっている
  • 売った側自身の資金で業者に支払う仕組みになっている

契約書の文言ではなく経済的な実態で判断される、とされています。高額な手数料のファクタリングは、かえって資金繰りを悪化させ、多重債務につながる危険があります。

確認と相談

  • 業者が貸金業登録をしているかは、金融庁の登録貸金業者情報検索サービスで確認できます
  • 金融庁 金融サービス利用者相談室:0570-016811
  • 警察相談専用電話:#9110

手数料を年率に直すと驚く水準になることがあります。公庫や信用保証協会付きの融資と比べてから決めてください。


まとめ

  • 倒産するのは赤字のときではなく、現金が尽きたとき。 利益と資金繰りは別に見る
  • 発注元は納品から60日以内に支払う義務がある。締め日からではなく納品日から数える
  • 2026年1月から手形払いは禁止。支払遅延には年14.6%の遅延利息
  • 対象は、発注元が資本金1,000万円超または従業員100人超(システム開発は300人超)。従業員基準は今回の改正で新設
  • 源泉徴収は10.21%(100万円超の部分は20.42%)。請求書で本体と消費税を分ければ、消費税分は対象外にできる
  • Web制作やシステム開発は源泉徴収の扱いが取引先でバラつく。初回の請求前に確認する
  • 2年目の6月〜11月に、予定納税・消費税の中間申告・住民税・国保が集中する
  • 13週間の資金繰り表を週単位で作り、マイナスになる週を先に見つける
  • 動く順番は、入金を早める → 支払いを待ってもらう → 借りる。借りるのは尽きる前
  • ファクタリングは金融庁が偽装貸付けに注意喚起している。手数料と登録の有無を確認する

出典

  • 中小企業庁・公正取引委員会「2026年1月施行!~下請法は取適法へ~ 改正ポイント説明会」資料
  • 国税庁 タックスアンサー No.2795「原稿料や講演料等を支払ったとき」
  • 国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし」第5 報酬・料金等の源泉徴収事務
  • 国税庁 タックスアンサー No.6609「消費税の中間申告と納付」
  • 国税庁 タックスアンサー No.2040「予定納税」
  • 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
  • 金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」

※この記事は制度の内容を整理したものです。個別の税務判断は税理士に、融資の可否は金融機関にご確認ください。当方は税理士ではなく、税務相談はお受けできません。顧問税理士がいない場合は、提携している税理士をご紹介できます。


書いた人

合同会社種火(熊本)。経理代行・記帳代行と、資金繰り・資金調達の支援をしています。金融機関出身のメンバーが融資と財務分析の実務を担当しています。

個人事業の資金繰りについてはこちらのページにもう少し詳しく書いています。創業したばかりで「どこから手をつけるべきか」が分からない段階のご相談も受けています。