医療翻訳とは?医療翻訳が難しい理由と翻訳時に注意すべき点
- 桝村 翼
- 記事制作日2022年12月7日
- 更新日2023年5月1日
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「医療分野の翻訳を頼みたいが人材が見つからない」
「クラウドソーシングで英語を得意とする人に翻訳を発注してもよいのだろうか」
こんな悩みを抱えてはいませんか?
結論からいうと医療翻訳経験のない翻訳家に医療翻訳をお願いすることはお勧めできません。
なぜなら、医療翻訳は小さなミスや誤訳が人の命を脅かす可能性があるからです。
今回の記事では医療翻訳の難しさと医療翻訳を行う際に注意すべき点を、海外経験豊富なプロの翻訳家が解説するので、ぜひ最後までお読みください。
医療翻訳とは?
医療翻訳とは、医薬品、医療機器、ヘルスケアなど人の健康に関連するすべての文書の翻訳を指します。
たとえば、医療記録、医療用品の説明書や告知媒体、保険レポート、臨床試験の結果、科学出版物、学術論文などです。
医療翻訳は小さな間違いでも混乱を招き、患者に深刻な結果をもたらす可能性があります。
用語や言い回しには細心の注意を払う必要があるのが医療翻訳です。
医療翻訳が難しい理由
医療翻訳分野で一番の難点は翻訳文を作成するために膨大な時間がかかる点です。
医療翻訳の分野では小さな誤訳でも深刻な影響を与える可能性があります。
ミスのない完成度の高い翻訳文を作成するためには何段階にも及ぶ徹底的な校正作業が必要です。
ここでは、どのような部分に時間がかかるのか詳細に解説します。
変化と進歩が著しい医療分野
医療分野は変化と進歩が著しいため常に調査を行い情報収集に努めなければいけません。
既存の商品の進化や更新であれば翻訳もまだ楽なのですが、まったく新しい技術が開発された時には、その技術を理解するだけでも時間がかかります。
日々調査をして医療分野の新しい情報を把握しておく必要があるのですが、新しい技術ともなればインターネットや医療雑誌でもわずかな情報しか得られないことがあります。
そのような時には関係者にインタビューする必要もあるでしょう。
読み手が誰かによって使用する用語が異なる
医療分野の翻訳者は読み手が誰かによって使う言葉を慎重に選ばなければいけません。
たとえば、病名です。
日本人で「おたふくかぜ」と言われれば、どのような病気かすぐにわかります。しかし「流行性耳下腺炎」と言われたたら、どんな病気かわかる人は少ないでしょう。
学術論文や医療記録を翻訳する際は「流行性耳下腺炎」など専門用語を使うべきですが、一般の方向けには「おたふくかぜ」という用語を使うべきです。
さらに難しい点は、英語や他の言語においても病名には俗称と専門用語がある点です。たとえば「おたふくかぜ」は一般的には「mumps」と言われますが、専門的には「Epidemic Parotitis」と呼ばれます。
病名を翻訳する際にはどの言葉が、どの場面、誰に対して使われるのかを調査し、適切な用語を使用する必要があるのです。
ふさわしい訳語が存在しないことがある
医療分野で使用されている用語は、すべての言語において訳語があるわけではありません。
特に最先端の技術や方式を使っている場合、それらを表す用語は、その技術や方式を開発した国にしかない場合もあります。
そんな時には翻訳先の言語の医療状況を調査したり、関係者にヒアリングしたりして、新しい技術や方式を適切に説明する用語や表現をつくりださなければいけません。
正式名称を確認する必要がある
小さなミスも許され難い医療翻訳において常に正しい正式名称を使うことが信頼を得るためにも必要です。
クライアントの信頼だけではなく医療商品や機器、サービスを利用する人々の信頼も維持しなければいけません。
愛知医科大学の小川徳雄氏も懸念しているように、特に外来語のカタカナ医療用語には気をつける必要があります。
たとえば、サーモグラフ、サーモグラフィー、サーモグラムはマスメディアなどで混同して使用されています。厳密にいえばサーモグラフは機械、サーモグラフィーは測ること、サーモグラムは測った数値で、サーモグラフを使って、サーモグラフィーを行って、サーモグラフを撮ります(小川 2004 学際的な学会で使用する用語はどうあるべきか, 日生気誌 41(4):155–162)。
このような混同がないように医療翻訳では正確な記載が必要です。
また、略語だけの記載は混同を招く可能性が非常に高いので略さずに正式名称を示すことが重要です。
たとえば、AAという略語はAortic Atresia(大動脈弁閉鎖)、Aplastic Anemia(再生不良性貧血)、Ascending Aorta(上行大動脈)の3つの用語を示す略語なので、「AA」だけではなく「Aortic Atresia(大動脈弁閉鎖)」と正式名称を記載する必要があります。
このように、以上4つの項目に気をつけるだけでも相当な時間と調査が必要になるのが医療翻訳です。
医療翻訳を行う際に注意すべきこと
すでに述べたように医療翻訳には単純に文章を訳すだけではなく時間をかけた調査が必要になります。
しかし、医療翻訳の最も難しい点は「ICH(医薬品規制調和国際会議)」のガイドラインや薬機法・医療法に従わなければいけない点です。
薬機法・医療法にふれた場合には、罰則もありクライアントも大きな損害を被る可能性があります。
ここでは簡単に薬機法・医療法に定められている事柄について解説します。
薬機法 第66条 虚偽または誇大広告の禁止
薬機法の第66条では以下に示すように誇大広告を禁止しています。
英語の広告や商品の紹介を日本語に訳す際には薬機法で示されている点をしっかり注意するようにしてください。
第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。
何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品に関して堕胎を暗示し、又はわいせつにわたる文書又は図画を用いてはならない。
薬機法 第67条 特定疾病用の医薬品・再生医療等製品の広告制限
薬機法第67条は以下に示すとおり、特定の病気、疾病に使用される薬について厚生労働省は一般の人々に危害がおよばないように広告を制限できるとしています。
広告に制限がないかどうか、常に調査し状況を把握しなければいけません。
第六十七条 政令で定めるがんその他の特殊疾病に使用されることが目的とされている医薬品又は再生医療等製品であつて、医師又は歯科医師の指導の下に使用されるのでなければ危害を生ずるおそれが特に大きいものについては、厚生労働省令で、医薬品又は再生医療等製品を指定し、その医薬品又は再生医療等製品に関する広告につき、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告方法を制限する等、当該医薬品又は再生医療等製品の適正な使用の確保のために必要な措置を定めることができる。
薬機法 第68条 承認前の医薬品や医療機器・再生医療等製品の広告禁止
薬機法第68条は承認されていない医薬品、医療機器、再生医療等製品の広告について「認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない」と明記しています。
英語から日本語に翻訳する際に気をつけなければいけないのは、対象となる医薬品、医療機器、再生医療等製品が日本で承認されているかどうかという点です。
医療法によって禁止の対象となる広告の内容
医療法では主に以下の3点に該当する広告が禁止されています。
- 広告が可能とされていない事項の広告
医療法又は広告告示により広告可能とされた事項以外の広告はできないことになっています。
- 内容が虚偽にわたる広告(虚偽広告)
厚生労働省によれば「医学的にあり得ない事項」についてはすべて虚偽とされるので注意が必要です。
たとえば、「絶対安全な手術」は医学的にあり得ないので虚偽広告として扱われます。
- 医療に関する適切な選択に関し必要な基準として厚生労働省令で定めるもの
この事項には以下の4点が含まれます。
- 「日本一」、「No.1」、「最高」という表現をつかって他の病院や医療機関と比較する広告は、客観的事実であっても使用できない。
- 施設の規模、人員配置、提供する医療の内容等について、事実を不当に誇張した表現、人々を誤認させる表現は使用できない。
- 患者や医療従事者の主観によるものや客観的な事実であることを証明できない表現は使用できない。
- わいせつ若しくは残虐な写真・映像又は差別を助長する表現は使用できない。
(参考:厚生労働省HP「医療法における広告規制の現状について(資料2)」https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000117468.pdf)
英語の医療関連資料を日本語に訳す場合には、日本の薬機法、医療法に従う必要があります。
日本語からその他の言語へ翻訳する場合には、資料が公開される国の薬機法、医療法に類する法律を扱う部局の規制に従わなければいけません。
たとえばアメリカであればU.S. Food and Drug Administration(FDA)、イギリスであればMedicines and Healthcare products Regulatory Agency(MHRA)です。
まとめ
今回の記事では医療翻訳が難しい理由と医療翻訳を行う際に気をつけなければいけないポイントを解説しました。
- 医療翻訳が難しい理由
- 変化と進歩が著しいため常に調査を行い情報収集に努める必要がある
- 読み手が誰かによって使用する用語が異なる
- ふさわしい訳語が存在しないことがある
- 正式名称を確認する必要がある
- 医療翻訳を行う際に注意すべき点
- 虚偽または誇大広告の禁止
- 特定疾病用の医薬品・再生医療製品などの広告制限
- 承認前の医薬品や医療機器・再生医療製品などの広告禁止
- 医療法で定められた禁止事項の遵守
医療翻訳は難しく、時間と手間がかかるため人材が不足している分野の一つです。そのため、クラウドソーシングで医療翻訳経験のない翻訳者に翻訳を発注してしまうケースも増えています。
医療翻訳は小さなミスでも大きな損害につながる可能性が高いので、発注する際は細心の注意を払って経験豊富なプロの翻訳家に発注することをお勧めします。
株式会社LA ORG 桝村(https://la-org.com/)
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株式会社LA ORG 代表取締役の桝村と申します。 ホームページ:https://la-org.com/ ポートフォリオ:https://www.portfolio.la-org.com/ 英中韓の翻訳事業とWordPressでのWeb制作事業、Adobe XD、Photoshop、illustrator等を使用したWebデザイン事業を展開しております。 世界シェア第4位の医薬品メーカー日本法人様やプライム市場上場企業グループ会社様、NASDAQ上場予定のベンチャー企業様とお取引させて頂いております。 SSサロン内でも様々なクライアント様より翻訳、海外リサーチ等の案件を頂いております。 また、クラウドソーシングでの実績についても以下にてご確認くださいませ。 Lancers:https://www.lancers.jp/profile/oregonian_office?ref=breadcrumb Crowdworks:https://crowdworks.jp/public/employees/3425349 ココナラ:https://coconala.com/users/2204682 <経歴> 2015年3月:神戸市外国語大学外国語学部英米学科 卒業 2015年4月:三井倉庫ホールディングス㈱ 入社 →物流施設オペレーション、輸出入フォワーディングを担当。アメリカ、マレーシアにて海外駐在。 2020年3月:三菱重工業㈱ 入社 →国産ジェット機開発プロジェクト(MRJ/スペースジェット)、ボーイングプログラムにて海外調達を担当。いずれもアメリカサプライヤが取引先。 2022年8月:Schneider Electric 入社 →エネルギー分野(UPS等)にて海外調達を担当。 2022年12月:株式会社LA ORG 創業 →翻訳(英中韓)、Web制作、Webデザインのサービスを提供している会社です。
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