翻訳業に必要なスキルは何?と聞かれて何を思い浮かべますか?

2言語以上の語学力、文章力、表現力、特定分野の専門知識などでしょうか?

 

もちろん、これらのスキルは翻訳業にとって必要です。

しかし、高い能力、翻訳力のある本にはもう一つ重要な能力があります。

 

それは、調査力です。

今回の記事では、具体的な事例を挙げながらなぜ翻訳業に調査力が必要なのかお伝えしたいと思います。

 

原文の作成者の気持ちに沿うために必要な調査

翻訳を行う際は原文の作成者の気持ちを理解しなければいけません。

そのためにも調査が必要です。

 

たとえば「through wars and weddings, mountains and gullies」というフレーズ、どのように翻訳しますか?

このフレーズは、バイクメーカー「Royal Enfield」のウェブサイトに記載されているフレーズです。

 

たとえば、このフレーズが「through wars, mountains and gullies」であれば、強いバイクであることを示すためのフレーズと考え「戦争、山々、渓谷を走り抜けて」と訳すことができるでしょう。

 

しかし、このフレーズには「weddings」が入っています。

「戦争、結婚式、山々、渓谷を走り抜けて」と翻訳できますが、いまいち意味が通じませんよね。

 

そこで、調査が必要になります。

「Royal Enfield」というバイクメーカーの歴史を調べてみると、第一次世界大戦、第二次世界大戦の際にはイギリス軍、フランス軍、ベルギー軍、アメリカ軍などがRoyal Enfieldのバイクを戦場で使っていたことがわかりました。

 

これが「through wars」の意味です。

次に「mountains and gullies」という部分ですが、Royal Enfieldは毎年、ヒマラヤツアーを企画し、バイクで険しい山々、渓谷を走っているそうです。

 

最後に「weddings」という部分ですが、Royal Enfieldのバイクはインドを代表する女優の結婚式に登場したほか、インドでは多くの方々の結婚式に登場し重宝されていることが分かりました。

 

このように調査をしてみると、「through wars and weddings, mountains and gullies」というフレーズが単なる比喩ではなく、実際にバイクが走った場所、役立った場所だったことがわかります。

すると、「戦争、結婚式、山々、渓谷を走り抜けて」という翻訳では不十分なことが分かりますよね。

 

より的確に翻訳先の言語話者に伝わる訳文を作成するための調査

どの言語であれ、翻訳しにくい文があります。

そのような文を翻訳する際には、「翻訳先の言語話者に言葉のニュアンスが通じるか」と常に自問自答しなければいけません。

 

たとえば、「原発の大義名分」という言葉、どのように訳しますか?

ここでは、翻訳者がどのような手法で調査をしているのか、少しだけ手の内をお伝えしようと思います。

 

手順1:辞書で調べる

まずは「原発の大義名分」という言葉を辞書で探してみます。

「大義名分」を辞書で調べると「Just cause」とか「cause」という単語が出てきます。

そこで、「The cause of nuclear power plants」という訳文を作ってみます。

 

しかし、この訳文をそのまま使うわけにはいきません。

英語話者がこのフレーズを日常的に使っているかということを調べる必要があります。

 

手順2:作成した訳文をGoogleで検索してみる

次に、作成した翻訳文をGoogleで検索してみます。

「The cause of nuclear power plants」という文をGoogleで検索してみた結果、ピッタリとくる英語サイトの記事はまったく出てきませんでした。

 

つまり、英語で「The cause of nuclear power plants」というフレーズは使われないということです。

英訳を考え直す必要が出てきました。

 

手順3:言葉が使われた文脈を確認して訳文を作成する

次に、翻訳の対象となっている言葉がどのような場面で誰が使ったのか、どのような文脈で使ったのかを確認します。

「原発の大義名分」をGoogleで検索すると、どうやら小泉元総理が講演会などで使った言葉ということがわかります。

 

小泉元総理の講演会記録を探し出し、原文を読むと「まず原発は安全だと。コスト、他の電源に比べて一番安い。もう一つ、CO2を出さないクリーンエネルギー。これが原発推進論者の三大大義名分だったわけです」という内容でした。

 

つまり、「原発の大義名分」とは原発を建てるために推進論者が説得に使った根拠という意味で使われた言葉だということがわかります。

そこで「The reasons to build nuclear power plants」というような訳文の案を作成します。

 

手順4:再度Googleで検索して確認し、訳文の修正を行う

作成した訳文「The reasons to build nuclear power plants」を再度Googleで検索してみます。

すると、いくつか英語のサイトがヒットしますが、いまいちしっくりきません。

 

しかし、検索結果のいくつかに「myth(神話)」という単語が使われたサイトが見つかりました。

そこで、「The myths to build nuclear power plants」という訳文を作成し再度Googleで検索をして、このような表現が頻繁に使われているか確認をします。

というように、しっくりとくる訳文が見つかるまで手順4を繰り返します。

 

ご参考までに結果をお伝えしますと、「The myths to build nuclear power plants」で検索をかけると、たくさん検索結果が出てきます。

 

たとえば、ニューヨークタイムズの「The result was the widespread adoption of the belief — called the “safety myth” — that Japan’s nuclear power plants were absolutely safe(結果として、日本の原発は完全に安全だという「安全神話」の信仰が広がった)」という記事が見つかりました。

最終的に「The myths of nuclear power plants」を訳文として採用することにしました。

 

まとめ

今回は、翻訳をするためには言語能力、表現力、文章力以外にも調査力が必要だということをお伝えしました。

翻訳の仕事は、単純に文章として書かれていることを違う言語に書き換えるだけではありません。

文章の意味以上に文章を作成した人の思いも翻訳しないといけません。

 

そのためには時には、膨大な調査が必要になります。

そのような時間と手間のかかる作業に手を抜かないのが弊社の翻訳です。

文章を翻訳するだけではない、調査の必要性を重んじる弊社にぜひご相談ください。

 

 

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