YouTuberのヒカルさんがプロデュースする美容ブランド「ReZARD Beauty」。

ヒカルさんの発信力を考えると、豪華な演出や大量のコンテンツを詰め込んだECサイトを想像するかもしれません。しかし、実際に公式オンラインストアを見てみると、サイトの構成は意外なほどシンプルです。

ECサイトだけを切り取って評価すると、「もっと商品の説明を増やした方がよいのではないか」「一般的な化粧品通販サイトに比べて情報が少ないのではないか」と感じる人もいるでしょう。

ただし、ReZARD BeautyのECサイトは、サイト単体で集客から購入までのすべてを完結させる設計ではありません。

YouTubeやSNSで商品の認知と信用をつくり、ECサイトでは商品を選んで購入してもらう。この役割分担ができているからこそ、シンプルなECサイトでも成立しています。

今回は、ReZARD Beautyの公式オンラインストアを、ECマーケターの視点から分析します。

ReZARD Beautyとは

ReZARD Beautyは、YouTuberのヒカルさんがプロデュースする美容ブランドです。

一般的な化粧品ブランドは、広告を通じて初めてブランドを知ってもらい、商品の特徴や成分、利用するメリットなどを説明したうえで、購入につなげていきます。

一方、ReZARD Beautyの場合は、ブランドをプロデュースするヒカルさん自身が、すでに多くの視聴者やフォロワーを抱えています。

商品の開発背景やこだわりについても、YouTubeやSNSを通じて、自分の言葉で発信できます。

そのため、ユーザーは広告を見て突然商品を知るのではなく、ヒカルさんの発信を見て、商品に興味を持った状態でECサイトを訪れることになります。

つまり、ECサイトにアクセスした時点で、すでにブランドや商品に対して一定の理解や関心を持っているユーザーが多いと考えられます。

この点が、一般的な化粧品ECとの大きな違いです。

一般的な化粧品ECは、なぜ長いLPを作るのか

化粧品のECサイトでは、非常に縦長の商品ページやランディングページがよく使われています。

ページを開くと、商品の特徴、配合成分、利用者の悩み、使用方法、開発者の思い、利用者の声、よくある質問などが、画像を中心に長く掲載されています。

これは、単純にページを派手に見せたいからではありません。

広告からアクセスしてきたユーザーは、そのブランドや商品について、ほとんど知らない状態です。

そのため、なぜその商品が必要なのか、どのような悩みを解決できるのか、他の商品と何が違うのかを、ページの中で一から説明する必要があります。

また、広告を主な集客手段とする企業では、ページ内の見出しや画像、商品の見せ方などを変更しながら、購入率の高い訴求を検証することも重要です。

そのため、広告を中心に商品を販売する化粧品ブランドでは、情報量の多い縦長のLPが採用されやすくなります。

一方、ReZARD Beautyでは、YouTubeやSNSが、こうした説明の一部をすでに担っています。

ECサイトに来る前に、商品の開発背景やヒカルさんの考えを知っているユーザーであれば、ECサイトの中ですべてを一から説明し直す必要はありません。

それよりも、商品を分かりやすく並べ、ユーザーを迷わせずに購入まで進めることの方が重要になります。

ReZARD BeautyのECサイトがシンプルでも成立する理由

ReZARD BeautyのECサイトは、商品を探して購入するという、ECサイト本来の役割に集中した設計です。

過剰な演出や複雑な導線を増やすのではなく、ユーザーが商品を確認し、カートに入れて購入できるように構成されています。

一般的なECサイトでは、サイトの中でユーザーの興味を引き、商品の必要性を説明し、ブランドへの信用をつくり、購入を促さなければなりません。

しかし、ReZARD Beautyの場合は、その多くをヒカルさんのYouTubeやSNSが担当しています。

ユーザーは、まずYouTubeやSNSで商品の存在を知ります。動画や投稿を通じて、商品の開発背景やヒカルさんの考えに触れ、商品に興味を持ちます。そして、購入したいと思った段階でECサイトにアクセスし、商品を選んで購入します。

このように、メディアとECサイトの役割が明確に分かれています。

そのため、ECサイトだけを見て「情報が少ない」「作り込みが弱い」と判断するのは適切ではありません。

重要なのは、ECサイト単体の情報量ではなく、ユーザーがブランドを知ってから購入するまでの導線全体です。

P2Cブランドは、ECサイトだけで評価できない

ReZARD Beautyのように、個人の知名度や発信力を起点として商品を企画・販売するビジネスモデルは、一般に「P2C」と呼ばれます。

P2Cは「Person to Consumer」の略で、YouTuberやインフルエンサー、著名人などが、自身のファンや視聴者に向けて商品を直接販売する形を指します。

企業名やブランド名だけで商品を販売する一般的な通販とは異なり、発信者本人の信用や影響力が、商品の認知や購入につながることが特徴です。

ReZARD Beautyの場合は、ヒカルさん自身が商品のプロデューサーであると同時に、商品の存在を多くの人に伝えるメディアとしての役割も持っています。

一般的な企業は、広告費を支払ってユーザーとの接点をつくります。一方、すでにYouTubeやSNSに多くの視聴者を抱えている場合は、自分の発信を通じて商品を紹介できます。

もちろん、ReZARD Beautyが実際にどの程度の広告費を使っているのか、商品の原価率がどの程度なのかは、外部から正確には分かりません。

ただし、一般論として、広告だけに依存せずに集客できるブランドは、新しい顧客を獲得するための広告費を抑えやすくなります。

その分、商品開発や品質、パッケージ、購入後の顧客体験などに予算を配分しやすくなります。

化粧品通販では、売上を伸ばすために大きな広告費を支払い続けなければならないケースも珍しくありません。商品が売れていても、広告費を差し引くと、利益があまり残らないこともあります。

一方、YouTubeやSNSから継続的にユーザーを集められるブランドは、一般的な広告依存型の通販とは異なる収益構造をつくれます。

ReZARD Beautyの強さは、ECサイトのデザインだけではありません。

ヒカルさんの発信力、商品への興味、発信者への信用、ECサイトでの購入体験が、一つの導線としてつながっている点にあります。

派手なECサイトを作れば売れるわけではない

ECサイトを制作する際、ページを豪華にしたり、コンテンツを増やしたりすれば売上が伸びると思われがちです。

しかし、ECサイトに求められる役割は、ブランドのビジネスモデルや集客方法によって異なります。

広告から初めてアクセスするユーザーが多いサイトでは、商品について丁寧に説明する必要があります。

ユーザーは商品のことを知らないため、商品の特徴や必要性、他の商品との違い、購入する理由を、ページの中で伝えなければなりません。

一方、すでに商品を知っていて、購入する意欲の高いユーザーが訪れるサイトでは、説明を増やしすぎることで、かえって商品を探しにくくなったり、購入までの導線が分かりにくくなったりする場合があります。

ReZARD BeautyのECサイトがシンプルなのは、手を抜いているからではありません。

ECサイト以外の場所で、商品の認知や説明、信用の形成ができているからです。

ECサイトだけですべてを解決しようとせず、YouTubeやSNSを含めた全体の導線を設計している点が、P2Cブランドらしい特徴だと感じます。

ECサイトは、単体ではなく集客導線全体で考える

ECサイトを改善するとき、サイトのデザインや機能だけに注目してしまうケースは少なくありません。

しかし、本来はユーザーがどこで商品を知り、何を見て興味を持ち、どのような気持ちでECサイトを訪れるのかまで考える必要があります。

例えば、検索広告から初めて商品を知ったユーザーと、何年もヒカルさんの動画を見ているファンでは、ECサイトに必要な説明が異なります。

前者には、商品の特徴や信頼性を丁寧に説明する必要があります。一方、後者はすでに商品や発信者への関心を持っているため、購入したい商品をスムーズに見つけられることの方が重要です。

つまり、すべてのECサイトに同じ正解があるわけではありません。

サイトを訪れるユーザーの状態によって、必要なコンテンツや適切な情報量は変わります。

ReZARD BeautyのECサイトは、ヒカルさんのYouTubeやSNSを見たユーザーが訪れることを前提に、役割を絞り込んでいると考えられます。

今後、さらに売上を伸ばすなら

現在のシンプルな設計は、ヒカルさんの発信を見て商品を理解しているユーザーに対して、非常に相性がよいと考えられます。

一方、今後、ヒカルさんを詳しく知らない層にも商品を広げていく場合は、新規ユーザー向けの説明を増やす余地があります。

例えば、肌の悩みや目的に応じて商品を選べるコンテンツや、商品ごとの特徴を比較できるページ、自分に合った商品が分かる診断コンテンツなどです。

「どの商品を選べばよいか分からない」というユーザーに対して、選び方を案内できれば、購入までの迷いを減らせます。

また、すでにブランドを利用しているファンに対しては、複数商品のセット販売や、使用する順番の提案、継続購入につながる仕組みなども考えられます。

ただし、これは現在のサイトが悪いという話ではありません。

既存のファンを中心に販売する段階と、ブランドを知らない新しい顧客層に広げていく段階では、ECサイトに必要な役割が変わります。

今後、ReZARD Beautyがヒカルさんのファン以外にも広く選ばれる美容ブランドを目指す場合には、ECサイトの中で商品の魅力を説明する役割が、これまで以上に重要になるでしょう。

まとめ

ReZARD BeautyのECサイトは、一般的な化粧品通販サイトと比べると、非常にシンプルです。

しかし、それはECサイトの作り込みが足りないからではありません。

YouTubeやSNSで商品の認知と信用をつくり、ECサイトでは商品を選んで購入することに集中してもらうという、役割分担ができているからです。

ECサイトを評価するときは、デザインの豪華さやページの長さだけを見るべきではありません。

ユーザーがどこで商品を知り、どこで興味を持ち、どのような状態でECサイトを訪れるのか。その全体を見たうえで、サイトに必要な役割を判断することが大切です。

ReZARD Beautyは、ECサイトだけで商品を売るのではなく、ヒカルさん自身の信用とメディアの影響力を活用して商品を販売しています。

シンプルなECサイトでも、集客から購入までの導線全体が設計されていれば、十分に売上をつくることができます。

P2Cブランドの強さが、非常に分かりやすく表れているECサイトだと感じました。